2018年12月、厚生労働省でKHJ(全国ひきこもり家族会連合会)が「自分らしい生き方シンポジウムin関東」についての記者会見を行った。KHJは、日本で唯一の全国組織の家族会(55地域、3800家族)。誰もが生きやすい社会を目指して、シンポジウムを開催する。
日程は、2019年1月14日(月・祝)12:30~18:00。IKE Bizとしま産業プラザ6階全体が会場になる。シンポジウム&ブースセッションでは、「あなたはどんな生き方(働き方)をしていますか?」をテーマに各出演者が個別ブースで参加者と交流をはかる。また、シンポジウムと並行して分科会も開催。「自分スタイルに逢えるセッション」「世代間交流(親世代・子世代の対談)」が企画されている。
自分らしさを大切にして生きたい
「ひきこもりは、8050問題(80代の親と未婚無職の50代ひきこもる本人が地域で孤立し共倒れになる問題)と言われますように、非常に年齢も高くなっています」と、KHJ事務局長の上田理香氏は家族が追い込まれている深刻な状況を説明。この一因として、「ひきこもる本人と家族の求めているニーズが合わないこと」「39歳という年齢制限の就労支援」を挙げ、「本人のペースを無視するような、あてはめる支援」の問題点を指摘した。
就労すると、支援が途絶えた先の職場で人間関係に行き詰まり、ひきこもり経験者が再びひきこもるという事例が多い。KHJの調査でも、4割以上から支援の中断が報告されている。そこで、KHJは、就労や自立といった既存の価値観に囚われないで生きるために大切なものを調査。自分らしさを大切にして生きたいという、ひきこもり当事者の声をくみ取った。
「今の社会の価値観、経済の価値観に逆行するような形かもしれませんが、私たちは生きる上で最も大事な生きる意欲、大切なものを、今回のシンポジウムで発信したい」とシンポジウムの意義を語った。
居場所の意味
「高校の卒業証書がなくても、大学に行ける選択肢があることを知るだけで、(子供は)ほっとした気分になるんです」シンポジウムの登壇者の三宅一之氏は、私塾まなび舎を立ち上げて、およそ20年になる。現在20~60代のさまざまな生きづらさを抱えた人をサポートしている。塾では不登校から社会人まで幅広く対応。社会のレールに戻るのか。別の道を歩むのか。しばらく休憩するのか。一人ひとりの個性を見極めて、将来の進路を一緒に考えていく。
厚生省社会労働局では、今年度から各市町村に居場所支援の予算を補助するようになった。三宅氏の塾のように自分らしく生きられる居場所があれば、社会で孤立している当事者や家族は勇気付けられる。就労ありきの価値観の呪縛から脱却するのも、シンポジウムの目的のひとつだ。
ひきこもりになじまない支援
「大人のひきこもりに関していうと、内閣府が40歳以上の追加調査が、来年の4月以降に公表されます。専門家での間のほぼ一致した推測は、100万人以上はいると言われております」と、KHJ理事の池上正樹氏は見過ごされてきた中高年のひきこもりについて言及。長期高齢化する要因として、「就労ありきの支援、あるいは訓練主体の社会更生プログラムが、ひきこもりという状態になじまなかった」と、上田氏の指摘と共通する認識を示した。
ひきこもりの人権
多様化した生き方は、まだ多くの人には知られていない。そのため、働いていない状態が続くと、「人生が終わってしまう」と焦った親が、高額な自立支援施設に子どもを預けることがある。しかし、これらの施設では、ひきこもり当事者の人権に十分な配慮がなされていないかのような報道が続いている(NHKクロースアップ現代『トラブル続出 自立支援ビジネス』)。
2018年12月には共同通信や神奈川新聞の記事がワンステップスクール湘南校で、入所者が相次いで抜け出すトラブルがあったことを伝えた。
「今回のシンポジウムは、一人ひとりの人権を尊重するといった、新しい未来の提言にもなって、つながっていくと思っています」という上田氏の言葉には、暴力的・詐欺的なひきこもり支援業者に裏切られてきた家族の無念があるのかもしれない。
ひきこもり当事者に寄り添うとはどういうことか?「自分らしい生き方シンポジウムin関東」は「当事者」の経験と知恵を信じ、ヒントを探ろうとしている。
文・瀧本裕喜、木村ナオヒロ
写真・瀧本裕喜