「家に居場所がなかったら」 シェアハウスから始まる再出発


自宅にいても居場所がない。お金もない。働く元気もない。

だけど、どこに出ていけばいいのか分からない。

そんな人を受け入れようとしているシェアハウスが茨城にあります。

運営している木本一颯さんへのインタビューです。

 

Q.木本さんのひきこもり体験はどのようなものでしたか?

イメージにあるようなひきこもり状態はなかったんですけど、戦闘不能状態になったのは、仕事を辞めた後。会社を辞めたい時に色んな友達に会社の愚痴を言っていたら、ピースボートの世界一周の船旅で知り合った友達から、「何もしなくていいから」と言われ、友達の家のある坂東市でひきこもりました。

鬱に近かったので、会社を辞める時とその後の半年前後は、思い出せないんですよ。思い出そうとするとすごいストレスがかかって。ただ、しゃべらず漠然と生きていたように思います。ちょっとお酒に逃げたりとか。

そのあと、友達の家の近くのお爺ちゃんお婆ちゃんの料理を手伝ったりとか、犬の散歩を手伝ったりとか、だらだらしていました。

 

Q.ひきこもっていた場所は、働いていた東京でもなく、地元との千葉県でもなく、茨城県の坂東市でしたが、何もない土地ですよね?

何もなかったことが逆にリフレッシュにつながったというか。東京で働いていたので、毎日人ごみの中で暮らしたり、ものすごい量の情報を浴びたりとかで、生活の余白が無かったんですね。だけど、坂東市に住んだときは本当に何もないから、気を煩わせることなく、田んぼとか見て、なんかいいなと。坂東市で暮らす人は東京で暮らす人たちと比べて、リズムがゆっくりしていたから、東京の速さじゃなくて、もっとスローライフに暮らしてもいいんだなと、世界が開きました。

本当にゆっくり休んだら、いろんなことに対してやってみようかなと。休むことが飽きてくるというか。

 

Q.ひきこもりになる人は、うつ状態になる人が多いと思いますが、どうしたらいいと思いますか?

安心できる環境にいないと回復は厳しいと思います。逃げる場所が実家しかなくて、親御さんが「なんだ、あいつは。毎日ゴロゴロして」とか、「いつまでこうなんだろう。うちの子は」みたいになっちゃうと、言葉の端々に出ちゃうじゃないですか。そういう環境だと回復にならないと思います。実家が理解あるところだと休めると思うんですけど、本当に休める環境って意外と世の中に無いと思います。

 

Q.木本さんも実家には帰れないと思ったんですか?

思いましたね。会社を辞めることも伝えたんですけど、「一年で辞めるのは早すぎるだろ。逃げじゃないか」みたいなことを言われて、自分が思っていたことをそのまま言われたのでグサッときてしまいました。住んでいたところの家賃も払えなくなる、行くところがないって時に友達が泊めてくれました。

 

Q.親御さんは、きびしい感じですか?

テレビはNHK以外見るなみたいな家だったので、優しい父親ではあるんですけど、きびしかったかなと。今は仲が良くて、この間も一緒にマラソンを走りました。最終的には、自分の判断を尊重してくれます。

 

写真:シェアハウスの共有スペース

 

Q.シェアハウスを始めようと思ったのは?

僕の休養中に新潟から東京に来た女の子の友達もやりたくない仕事で精神的に摩耗して限界になっていました。その子も実家には帰れなくて、自分たちで何か出来ないかってシェアハウスを始めました。坂東市の友達のおじいちゃんおばあちゃんの家が空き家になっているから、やるだけやってみようと。

それから、いろんな人が来ました。例えば印象に残っているのは、お金もスマホもない、身分証もない、みたいな人。何も分からない素人だったので、調べながら市役所に行って、まずは身分証を取って住民票を移したりました。

 

Q.シェアハウスの家賃が3万5千円で、お金儲けというよりは、住民のためにという思いがするのですが?

電気代とか全て込みで3万5千円です。去年の決算は赤字です。

 

Q.シェアハウス7件で居住しているのは全部で何人ですか?

今は、22人です。7つに増えたのはニーズがあったのと、空き家のオーナーさんも困っていたからです。壊すとお金がかかるし、家の中にはたくさんゴミがあって、オーナーさんもお手上げになっていました。業者に頼むと100万円掛かるところを、部屋を片づけ、草取りをし、少額だけど家賃も払いますとオーナーさんに伝えました。

空き家の再生っていうニーズに自分たちが応えられたところで伸びてきました。状況としても、満室でごめんなさいと断っている状態になったので拡大しました。空き家のオーナーさんは基本的には知り合いの紹介です。

 

Q.ひきこもりの人たちとの繋がりもあるのですか?

入居者は、ブログとか、ネットから自分で見つけて来ます。キラキラしたシェアハウスはいっぱいあるけど、何もしないでゆっくりしていいよというシェアハウスはここしか見つけられなかったと。

 

Q.全国的に見ても唯一ここだけなんですね。

広島とか福岡からもうちに来たりするんですけど、彼らになんでわざわざ茨城に?と聞くと、「自分を受け入れてくれそうだと思うところがなかった。ここは唯一受け入れてくれるんじゃないかと思った」と言います。昨日の山形の人も、実家にいたんですけど、両親に「いい年をして、いつまでダラダラしてんの?」って言われてここに来ました。

 

Q.埼玉の方にもいろりの新しいシェアハウスができましたが、どうやって空き家のオーナーさんを見つけましたか。

埼玉の人は、息子さんが自閉症で、息子さんと他の人を交流させたいし、交流をきっかけに住んでくれた人も元気になるなら嬉しいということで、いろりに参加してくれました。居場所づくりをしてくれる人が増えた方がいいじゃないですか?だから、ノウハウとかは隠す必要もないと思っています。

Q.入居者だけではなくて、同じことをしたい人も受け入れているということですか?

そうですね。

Q.入居者の中にはひきこもりの人もいるということですが。

ガッツリひきこもっている人は来ないですが、ひきこもり期間が10年未満の人はこのままではまずいってことで、半歩社会に出る形でうちに飛び込んで来ます。社会が怖いと言ってシェアハウスに来た後は、バイトを始めてもうまくいかないことがありますが、自分のペースで働ける道を探しています。そこからうまくフリーターにまでは行けたりします。ガッツリひきこもっている人も受け入れるつもりですが、連絡することが高すぎる壁になっているのだと思います。

 

Q.他の支援施設では、入寮費で毎月20万円、訪問支援が毎月10万円、一日で引き出すなら100万円という請求がありますが、ここでは就労プログラムもないのに働き出すのですか?

僕が働かなくてもいいと言うから、働き始めるというか(笑)。人間不思議なもので、何もやらなくていいと言うと、やりたいことが浮かんでくるんです。

何かをやれと言うと、それをはじくのにエネルギーを使うので、自分がやりたいことに向けるエネルギーを残せません。周りからの意見をシャットアウトするためにエネルギーを使ってしまいます。来たばかりの子に、何がしたい?とか、将来どうなりたいの?とか聞けないんですよね。だけど、「見つかったら教えて」と放っておくと、実はパソコンに興味があるとか、実は農業に興味があるとか言って来てくれます。心の奥底には本当はやりたいって思うことが誰にでもあると思っていて、交流をする中でどうなりたいか話してくれれば、それを実現するためのステップを用意できるときがあります。

 

 

写真:シェアハウスの庭ではバーベキューが行われることも

 

Q.自分の経験とシャアハウスの経験から掴んだものがあったんですね?

うちのユニークな点を挙げるとすれば、社会復帰を掲げていないというところです。「休みたいだけ休めばいいよ」というのが他の支援施設にはない特色かな。だから、親御さんからは「ダメだここは!社会に戻せ!」と言われることもあるんですけど(笑)、その子がやる気になったら勝手に動き出すと考えています。

 

Q.ひきこもりの人に必要なことは、何ですか?

安心感と認めること。誰からも認められないから閉じこもるんだと思います。「ありのままでいいじゃん。毎日寝る生活でいいじゃん。一日10時間ゲームしてもいいじゃん」と、とりあえず認めてあげるんですよ。働くべきなんていうのは常識だと思いますが、犯罪を犯しているわけじゃないから、そこはこだわらずに、心が疲れているときは休んだ方がいいです。体だったら分かりやすいと思いますが、両足が折れていたら休むんだから、心が折れているなら休んでもいいよと、その人の状態、ひきこもりたいという感情だったり、頑張れないという状態を丸っと認めて受け入れてあげます。ほめるでもなく責めるでもなく、居場所というものを感じてもらえて、社会にも心を開いてもらう。こんな自分でも受け入れてくれる社会があるんだっていうところから、周りが見えて、プラスの方に目線が向いていきます。

 

Q.これからしたいことはありますか?

何も知識がない状態から、地元ではない茨城でここまで団体を成長させることができたので、やる気があれば他の場所でも同じことを皆ができるはずだと思っています。これまでのノウハウを居場所作りをしたい方々に伝え、多くの人に居場所を提供したいです。次のステップとして自分自身が10件、100件シェアハウスを増やすよりも、いろんな人に「人を救うことで救われてほしい」と思っています。

写真:フランスのTV番組からも取材される木本さん(右端)

NPO法人いろり公式ホームページ
https://irori-npo.com/

代表:木本一颯(きもとかずさ)
1992年生まれ、千葉県出身。2016年、筑波大学哲学科卒業。銀座でコンサルタントを勤めるも精神的不調で退職。悩める人を救うためリバ邸茨城の立ち上げに携わる。2018年にリバ邸を独立し、「いろり」を立ち上げる。
好きな言葉は「みんな違ってみんないい。」座右の銘は「動けば心も前を向く。」好きなラーメン二郎は横浜関内店。